7-3. サツマシダ と ミクリ
<サツマシダ>
図1は、あさぎり町深田西の山林に日本シダ植物の中で最も注目されているシダが生息しているサツマシダである。あさぎり町HPには以下のような説明がある。
「サツマシダは、あさぎり町深田西新の山林に生息し、日本シダ植物の中で最も注目されている。環境庁は、植物版レッドリストに絶滅危惧種Bランクとして記載。薩摩大口市、紫尾山(しびさん)系の一部と水俣市に植生が知られていたが、当管内で発見されたことによりサツマシダ分布の北限地として重要である」。図1. サツマシダとその拡大図(右) あさぎり町登録文化財(出典:あさぎり町HP) |
日本でもっとも豊かな隠れ里の人吉球磨盆地には、まだ人に知られていない、名前が付けられていないシダが沢山ある。それの名付け親、つまり新種シダの発見者が人吉在住で、筆者の中学時代の恩師でもある乙益 正隆先生である。先生は、オトマスイヌワラビ、オトマスイノモトソウ、アソシケシダ、クマイワヘゴ、ナンピイノデ、ヒトヨシイノデほか十数種のシダ植物の新種や新雑種を発見されておられるが、そのうちの2例を、東京大学総合研究博物館所蔵の標本画像を借りて図2に示す。
1)クマイハヘゴ | 2)オトマスイヌワラビ | 3)ナンピイノデ |
図2. 乙益正隆先生の発見・命名されたシダ植物の例 写真:1)2)は東京大学総合研究博物館所蔵 3)は大分県のHP |
シダの学名に「オトマス」とか「ヒトヨシ」「クマ」等があるが、これは植物の命名規約に基づくもので、発見者、つまり命名者の名前とか地名である。植物の学名は、国際植物命名規約にもとづき、「属名」、「種小名」をラテン語形で列記し、最後に「命名者」を付記することになっている。ラテン語表記をすることによって全世界で植物の名前を共有することができるわけである。
図2の「クマイハヘゴ 」は山江村に自生している。「オトマスイヌワラビ」は人吉から久七峠を越えた薩摩出水市上場地区で採取されたものである。「ナンピイノデ」は、これまで人吉地方やなど宮崎県の一部と九州南部に分布するとされていたが、2005年に大分県の津江山地(福岡県南部との県境)でも生育が確認された。スギ植林内に群生していて生育面積は狭く、スギの伐採による生育地の消滅が危惧されるとの記事があった。
<ミクリ>
もう一つ、球磨川流域、特に河口付近の扇状地や人吉市下林の頭無川(ずなしがわ)などには、熊本県絶滅危惧Ⅱ種(VU)のミクリ群落が分布している。「ミクリ」は栗のイガに似ているので「実栗」とも書き、図3のような多年生の水草である。沼沢地や流れの緩やかな水路などに生育し、北海道から九州にまでアジアにも広く分布する。高さは1。5mを越える。
図3. ミクリと実の拡大(熊本県絶滅危惧Ⅱ種) あさぎり町登録文化財 (出典:あさぎり町HP) |
以上、ツクシイバラやリュウキンカ以外は、あまり聞いたことも見たこともない希少植物や昆虫が人吉球磨地方には生息・自生していて、改めて人吉球磨地方が、自然も豊かな隠れ里であることがわかる。